ブロックチェーンと人工知能は本当は相性が悪い

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こんにちは、笑ゥもなりざさんと申します。本業は医者をやっております。

当然ながら私は人工知能の専門家ではないのですが、2年くらい前に本業に活かせないかとディープラーニングに興味を持ち、それ以来ちまちまと独学しておりました。

現在は自力でプログラムを組んでGPUを使ってディープラーニングブイブイ計算機を回すことができるまでになりました。

調子に乗って試しにディープラーニングでBTC価格を予想して取引するBotを作ったところ、ポジション持ったままエラーで動かなくなり、ただのBTCガチホマシーンの開発に成功しました。

私は仮想通貨の世界に入ってきてから、いくつか人工知能ブロックチェーンを組み合わせたプロジェクトを見かけました。

常々思っていたのですが、人工知能ブロックチェーンは果たして本当に相性がいいのだろうか?組み合わせることで相乗効果が期待できる技術なのだろうか?という疑問がありました。

一見すると両者とも近年のバズワードでもあり、人工知能ブロックチェーンを組み合わせれば、何やらすごいプロジェクトが完成しそうに思えます。

こういった点に関して一度しっかりと掘り下げてみたいと思い、改めて考えてみることにしました。

まず、人工知能とはなんぞや

まず、近年話題になっている人工知能について考えてみます。

と言っておきながら話をぶち壊しますが、今のところ人工知能なんてものは存在しません。

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今現在、世界中どこを探しても人工知能なんてまだできていないのです。

人工知能はすでにたくさんあるよ」という人もいますが、これは世の中に出回っている人工知能の定義が一つではないからです。

そして、私自身は人工知能はまだ存在していないという意見に沿う人間であるということです。

以下に人工知能研究で有名な東京大学の松尾先生の言葉を引用させていただきます。

世の中に「人工知能を搭載した商品」や「 人工知能を使ったシステム」は増えているので、人工知能ができていないなどと言うと、びっくりするかもしれない。しかし、 本当の意味での人工知能 ー つまり、「人間のように考えるコンピュータ」はできていないのだ。

人間の知能の原理を解明し、それを工学的に実現するという人工知能は、まだどこにも存在しない。したがって、「人工知能を使った製品」や「人工知能技術を使った サービス」というのは実は噓なのだ。

松尾 豊 人工知能は人間を超えるか (角川EPUB選書) KADOKAWA / 中経出版より引用

実際のところ、人工知能という言葉の定義は研究者の中でも異なり、未だ議論がなされている論点でもあります。

しかし、上記の松尾先生の言葉は今の現状を理解するのにとてもしっくりきます。

人工知能という言葉が近年再度注目され始めたのは、2012年にImageNet Large Scale Visual Recognition Challenge (ILSVRC)というコンピュータを使用した画像分類の大会で、ディープラーニングという手法を使ったチームが圧勝したことがきっかけです。

http://www.nlab.ci.i.u-tokyo.ac.jp/pdf/CNN_survey.pdf

つまり、近年の機械学習の大きな進歩はディープラーニングによって作られた画像分類器に起因します

ディープラーニング自体は、ニューラルネットワークと呼ばれる計算ネットワークを使った手法の一つです。

ディープラーニングでデータを学習させることで、機械による分類器や予測器を作ることができます。

しかし、機械による画像分類器はいくら精度が高くても、それ自体で「人間のように考えるコンピュータ」とはなりません。

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人間の知能は五感から入ってくる情報から自律的に判断し、時として感情によっても行動を選択します。

人間の知能は単純な分類器よりももっと複雑です。

つまりいま世の中で起きているのは、機械による正確な分類器や予測器に人工知能という呼び名が商用的に与えられてしまい、その呼び名に対して多くの人が「人間のように考えるコンピュータ」を想像してしまっている状況です。

人工知能と聞けば何か計り知れないことをする崇高なコンピュータを想像してしまいます。

しかし分類器・予測器と聞けばいまの人工知能の現状が自ずと理解できます。

今の状況は、「人工知能」や「AI」という言葉は、今現在、その言葉に「人間のように考えるコンピュータ」を想像させる狡猾な優良誤認のために使用されてしまっていると言えます。

じゃあディープラーニングは役立たずなのか

人工知能は存在しない、それならば人工知能の名を冠せられてしまったディープラーニングは役立たずなのか、というとそうではありません。

ディープラーニングを使った画像識別はこれまでの技術を凌駕します。

これまで既に、とても精度の高い分類器・予測器を生み出しています。

医療の分野だと有名なのは、まず糖尿病網膜症です。

ディープラーニングによって眼底の画像を使って、機械だけで眼科専門医に匹敵して糖尿病網膜症を正確に診断できるようになりました。

https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2665775

また、皮膚がんの診断も同様に、皮膚の画像を使って皮膚科専門医と同等に判断ができることがわかっています。

Dermatologist-level classification of skin cancer with deep neural networks | Nature

これらはすでに診断機器やアプリとして開発が進み、すでに実用の段階に来ています。

これらの進歩は人工知能ができた」わけではなく、「機械の眼ができた」と考えるとより理解しやすくなります。

10mtv.jp

ディープラーニングによる分類器・予測器の誕生は、あくまで人間並の、または人間の精度を超え得る「眼」ができた段階なのです。

つまり、機械への情報の入り口としての優れた「眼」の誕生です。

現実には「眼」だけでは役に立つケースはなかなか少なく、これになんらかの「手足」が付いて初めてより役に立つものに生まれ変わります。

今後この「眼」からの情報を使って「手足」を動かす機械たくさん生まれれば、爆発的な変化が世の中に広まるだろうという段階にあるわけです。

ディープラーニングと相性が良いのは「手足」

ディープラーニングによって人を超え得る「眼」ができると証明され、ディープラーニングはいま「手足」を欲しています

例えば、そういった「手足」の良い例の一つは自動車です。

https://blogs.nvidia.co.jp/2018/01/25/training-self-driving-vehicles-challenge-scale/

ディープラーニングによる眼によって情報を得て判断し、乗っている人を自動車という「手足」を使って目的地に運ぶ自動運転技術の開発が進んでいます。

blogs.nvidia.co.jp

空飛ぶ「手足」としてドローンの自動運転も開発が進み、実世界での活躍が同じように期待されています。

innovation.mufg.jp

ディープラーニングの「眼」に製造業のロボットを「手足」としてつけることで、工場の製造工程を自動化するのも大きなニーズがあるでしょう。

www.itmedia.co.jp

また、ディープラーニングによる分類器・予測器の開発に関しては大きく分けて二つの研究分野があると思っています。

「眼」の精度を高めたり「眼」を超えることをやらせるための研究と、「眼」を実社会で役立てるための研究です。

言い換えると一つは「人が判断できない高度な判断をする」、「人が創造できないものを創造する」ための研究開発、もう一つは「人が判断していることに置き換わる」ための研究開発です。

前者の「人が判断できない高度な判断をする」、「人が創造できないものを創造する」ためのディープラーニングは、既に様々な研究が進んでいます。

例えば強化学習で人間にゲームで勝つ、画像を生成するDCGANで人が創造できない芸術作品を描く、などの研究を含みます。

こういった「人を超えるためのディープラーニング研究」が今後さらに発展していくことは間違いありません。

間違いありませんが、具体的な未来についてはまだ未知数です。

いまのところ、産業応用で大きく伸びることが確実に明らかなのは、後者の「人が判断していることに置き換わる」ためのディープラーニングです。

人が「眼」を使って判断していることを、機械の「眼」に置き換えて自動化する事業に対して、巨大な市場が広がっているのです。

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ブロックチェーンは「記憶」である

さて、長々とディープラーニングについて書いてきましたが、ブロックチェーンの方に目を向けます。

ブロックチェーン自体は分散型取引台帳であり、分散化のための技術です。

ブロックチェーンによって非中央集権化、データの改ざん防止、契約の効率化や改ざんの防止が期待できるのは今更書くまでもないことです。

ブロックチェーン技術は新たな社会基盤になり得る技術と言われていますし、私もそう思います。

しかしブロックチェーンを一言で言い表すと、ブロックチェーンは「台帳」です。

誤解を恐れずに人間の脳の機能に置き換えてしまうと、ブロックチェーンは「記憶」です。

こういってしまうとブロックチェーンは「記憶」以上のことができると反論が来そうですが、もちろんこの「記憶」は特別で画期的な技術です。

改めていうと、ブロックチェーンは国家などの中央集権的な後ろ盾なしに、正確性・耐改ざん性を持ちつつ誰にでも見れる「記憶」を作り出すことができます。

しかしここが重要なポイントですが、「記憶」するだけでは「手足」として行動できないのです。

ディープラーニングという「眼」が求める「手足」は、何らかのアウトプットをするための「手足」です。

一方でブロックチェーンは、何らかの「手足」が世の中に対して行ったアウトプットを「記憶」することで、より大きな価値を生み出す技術です。

確かに、ディープラーニングの「眼」によって得た情報を自動で非中央集権的に「記憶」するということでも十分応用性はありそうですし、そういったビジネスモデルが出てきてもおかしくはありません。

しかし、現状のディープラーニングの「眼」とブロックチェーンの「記憶」だけでは相乗効果を狙って新たなイノベーションを起こすのは難しいと思っています。

なぜならば、ディープラーニングブロックチェーンだけでは「手足」が足りないからです。

「眼」と「記憶」だけではOutputをする手段がないのです。

そのため、この二つを組み合わせて大きな価値に結びつけるためには「手足」に何を選ぶかがすべてなのです。

少なくとも、こういった視点からきちんと見渡すと、「眼」と「記憶」の役割が相乗効果を持って、適切な「手足」とともに設置されているプロジェクトを、私は未だ知りません。

批判を恐れずに書きますが、プロジェクトによっては「眼」と「記憶」が別々にただ配置されているだけだったり、「人工知能」という優良誤認を狙った言葉を使うためだけのように思えるものが少なくありません。

未来に対する私の想像力が拙いだけかもしれないだろと批判する人もいるかもしれません。

私も自分の想像力を超えた発想のプロジェクトが今後出てくる可能性を完全に否定するつもりはありません。

しかし、繰り返しますが現時点ではディープラーニングブロックチェーンはそれぞれ「眼」と「記憶」という役割に落とし込むことができます。

こういった視点で既存の「人工知能xブロックチェーン」を冠するプロジェクトをよく観察して吟味する必要があると思っています。